国鉄が赤字になった原因を探る

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借入金と債券は借入金でひとまとめにしています

結論
①債務自体の増加は工事資金と利払いが主で、償還する枠組みが弱かった
②利払いが急増した要因はインフレ時の運賃抑制策が発端
③工事費用のメインは新幹線や首都圏で、地方路線は少ない
④鉄道業の経営自体は悪くなかった。人件費も世間並
⑤赤字路線の廃線はやむを得ないが、経営に対する負荷は低かった
国鉄の予算・運賃値上げを決める政府の判断のミスが一番大きい

国鉄債務が急増した70年代の経済背景

・1973~75年にオイルショックに端を発する急激な物価上昇
・職員給与や燃料費は消費者物価の影響を受ける
・政府からの借入金は公定歩合の上昇により利払いが増える

国鉄の経営は4つのサイフがある

・①一般勘定は鉄道運営の維持のみで、利益を②資本勘定に繰入れる枠組み
・③工事勘定は車両や新規路線・電化・線路を増やす・駅のホームを長くする等の初期費用
・③工事勘定の資金確保の為に②資本勘定で借入金や債券発行を行う
・②資本勘定の借入金の元本返済や利払いは①一般勘定の利益から
・1970年までは上記の枠組みが成立していたが、1971年から①が赤字になり逆ザヤに

資本勘定の収入・支出と、工事勘定の支出内訳

・資本勘定(収入)ほぼ借入金で1970年までは少ないものの鉄道収入がある
・資本勘定(支出)本来は工事勘定だけのはずが71年以降は借入金償還と赤字補填が主に
・工事勘定(支出)新幹線と改良費が大きい。新規路線の建設費はわずか。
 施設更新の頻度が高い首都圏などの割合が高いのではないか

改良費の詳細(運輸白書の施設投資費用の明細)

・通勤輸送や幹線(主要路線のこと)への投資が多い。地方交通線の記載はない

一般勘定の収入と支出と、運輸成績

・収入は右肩上がりで旅客運輸量も増加していて経営が傾くようには思えない
・支出では赤字分の大部分が利払いであることがわかる
・利払いの部分を除くと、鉄道運営自体はそこまでひどくない
・70年代の急激なインフレの中で、収入・営業費・人件費の増加が適正かどうかをみる

1970年=100とした場合の各費用の上昇具合と、政府がとった対応

国鉄職員の人件費総額は、民間給与実態調査の平均値の伸びとほぼ同じ
・営業費は消費者物価よりも伸びが大きいので適正かどうかは難しいところ
国鉄運賃が1970~73年の間、抑制されていた(政府によるインフレ抑制策)
・職員人件費は5年で倍増、物価も70%上がっているのに収入は増やせない
・71~74年の4年間の経常赤字合計1兆6800億円で、うち資本勘定から補填したのは合計8800億円、仮に利率9%とすると利払いが年額792億円増加する事になる
・66~70年の一般勘定からの利益繰入額が年平均800億円なので、以後は相殺される結果に
・71~74年に赤字が急増した為、74~77年に私鉄運賃に追いつくように急激な運賃値上げ
・運賃抑制策→世間の物価上昇を超える急激な値上げで国鉄のイメージが悪くなる
・76年、借入金残高急増による利払い増加が運賃値上げでも吸収できず④特定債務勘定を制定
・②資本勘定の借入金の一部を④特定債務勘定に移し、利払いを税金(補助金)で賄う
・④特定債務勘定の元本は減ることなく清算事業団にまで引き継がれる
・④特定債務勘定の利払い合計約3兆円だけを税金で支払うだけで事態の解消にはならず

1979年、地方交通線という定義が作られ営業係数の悪化が取り上げられる

地方交通線の営業係数(収入100円に対する経費)の悪化を唱え始める
・旅客人数あたりに対する経費が高いのは事実だか、損失総額は幹線の方が多い
・仮に幹線が黒字で、地方交通線が赤字なら地方交通線が問題視されるのは納得できる
・実際は幹線・地方交通線ともに赤字で、その赤字総額が幹線の方が多いので、赤字の原因は別にあるはず
・ここで地方交通線のみを問題視するのは70~79年までの政府による国鉄の資金政策の失敗をごまかす為ではないのか
・旅客人数の少なさと営業係数の高さから地方交通線廃線は適切な対応だと思うが、国鉄の営業が傾いた主な原因は、地方交通線ではなく政府の国鉄政策としか思えない(当時の国鉄の予算・決算や運賃値上げは国会の承認が必要で、新幹線建設も国の政策)

上記の幹線・地方交通線の比較資料を推移として作成しなおした


国鉄の債務残高の明細と発生要因

・工事勘定(17兆円)の主な投資先は新幹線や幹線輸送や通勤輸送
・利払い(10兆円)運賃抑制策がなければここまで急増しなかった可能性が高い
・本業の営業赤字分(6兆円)

民営化時の債務処理スキーム(第1弾)

・JRは経常利益を確保できる前提になるようにJR負担分を計算した
・JRは債務から実質の釈放で、清算事業団と国民に債務が振り分けられる

民営化時の債務処理スキーム(第2弾)

清算事業団は債務を減らすどころか逆に債務を増やす(利払い分で収入が食い潰される)
清算事業団の後継組織の鉄道建設公団には、国鉄職員の年金負担分のみが割り振りされ、残りは政府の債務として引き受ける

国鉄42年とJR30年の経営成績と債務残高を一つにつなげた





(経営成績)
国鉄時代の利払いがなくなった事でJRの経営は初年度から黒字で以後も順調
国鉄末期~JR初期に地方路線を廃止したが、営業費が大きく減少していないということは実は地方路線の経営負担はそこまでかかっていなかったのではないか
国鉄最終年に営業費が少し下がっているが、これが地方交通線の削減結果とするのであれば、国鉄の赤字の主要因は利払いだったことが読み取れる
(債務残高)
・JR本州3社の債務11兆円はほぼ返済済み
・政府の債務残高は、一般会計から借換国債に置き換えられ表面上は見えにくくなる
・政府の債務残高は17兆円で国鉄の民営化が議論された1980年とほぼ同じ額が未だに残る
・政府の債務は年間4000億円程度減少し、うち1500億円がたばこ特別税で負担
・政府の債務はあと40年ぐらいでなくなる計算(民営化後70年の喫煙者が負担)
JR北海道・四国・九州への経営安定基金で補助された2兆円について)
・JR本州3社が11兆円の債務返却ができたのだから分割の枠組みがおかしいのではないか

以上です。